兄は殺して欲しいと思っていた

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

ある兄弟に起きた実話。

母子家庭で互いに支え合う必要があったからか、とても仲の良い兄弟だった。
兄は運動が得意で、弟は勉強が良くできた。

小学生の頃、兄は野球選手になりたいと言い、弟は学者になりたいと互いの夢を語り合った事もあるという。

ある時、兄がプールで溺れた。
兄が高校生、弟が中学生の時だった。
命は助かったが、脳に障害が残り寝たきりになってしまった。

四肢にも麻痺が残り、一日中介護が必要な身体となった。

母は一日中、弟は学校以外の時間は全て兄の介護に当てた。
だが、当然収入は途絶える。
たちまち一家は困窮した。

弟は自分で生活保護制度があると調べ、母に相談した。
しかし、当時はまだ生活保護が一般的でなく、恥と考えられた時代。
母親は猛烈に拒んだが、今のままではどうしようもない。
弟は自ら役所へと行った。

しかし、役場の職員の態度は冷たかった。
本人が来なければ申請すら受け付けないという。

弟は推薦の決まっていた高校を辞退し、中学を辞めた。
夜明けと共に新聞配達のバイトをし、日中は兄の世話、夜になれば別のバイトと、寝る暇など無い生活となったが、弟は決して弱音を吐かなかったという。

そのころから兄は死にたいと口にするようになった。

『一生このままだ、もう死にたい。』

そんな日々が一年あまり続いたある日、弟は兄の首を絞めた。
兄は最後にくっと声を漏らし、息絶えた。

生活も弟の心も限界に来ていた。
弟は自ら警察に通報、即時逮捕された。

裁判では一切弁解する事なく罪を認めた。

弟に下された判決は2年間の少年更正院への送致。
弟は控訴することなく罪を受け入れた。

少年院に送られた弟はむしろ以前よりも前向きな言葉を口にするようになっていた。

一刻も早く社会復帰して母を助けたいと言い、送られた後も大学検定試験の勉強に勤しみ、真面目な態度で少年院での生活を続けていたという。

だが母は、弟を担当した弁護士に「兄を殺してほしいと思ったことなど一度もない、許せない」と語り、弟が少年院にいる間、一度も面会に訪れることはなかった。

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