あの「オレンジ」はやっぱりヤバいやつだった

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

俺が小学生の時の奇妙な体験談。

当時、ときどき学校周辺を徘徊して生徒に声を掛けたりする変な婆さんがいた。

今考えれば恐らく認知症か何かだと思うのだが、子供時分にそんな理解を持ってる奴は誰もいなくて、俺たちはその婆さんをいつも来ている服(パジャマ)の色から「オレンジ」って呼んで面白がっていた。

婆さんには噂が多々あって『ゴミを漁る』『息子は刑務所の中』『野良猫を殺している』等の出所も根拠も不明の流言が時には恐ろしい事実として、時にはネタとして語り交わされていた。(それは俺たちにとって遊びの一つだった。でも単に遊びなだけというより、理解力に乏しいガキにとって婆さんの『得体の知れなさ』はウソとホントの境目においてしか像を結べなかったのだと思う。)

で、俺が4年生の時。
一つ上の学年が授業の一環で校内菜園で野菜を育てていたのだが、それが荒らされる事件があった。

犯人(菜園に靴跡があったとか。学校は被害届を出した)は判らず仕舞いだったが、一部では「オレンジ」がやったらしいという噂が流れていた。
「オレンジ」に遭遇して怒鳴ったり石を投げた糞ガキもいた。

それから暫くして「オレンジ」を見かけることは無くなった。
噂も話されなくなって、そうなるとそんな婆さんがいたことすら皆すぐに忘れていった。(ちなみに「オレンジ」は足取りのヨタヨタした婆さんだったので校門や柵を乗り越えて侵入なんて考えづらい。
でも当時は『そうだけど、でも「オレンジ」だし・・・』と思えた。

自分たちが婆さんの存在に噂を纏わせ膨らませといて、その影の大きさに自ら怯えていた訳だわな。)

翌年、野菜栽培の番が来た俺たちの学年に事件が起きた。
菜園の草刈り中に骨が見つかった。

骨はゴロゴロ出てきて先生が警察に通報する騒ぎになった。
結局のところ骨は何匹分もの猫のものだったそうだ。

この事件はそれ以上の進展はなく、俺たちの学年は校外の畑を使うことになって幕切れとなった。

この謎の事件に多くの生徒が驚きと好奇を抱いたと思う。
けれど俺は得体の知れない恐怖で一杯だった。

同じ思いの奴は他にもいたはずで、そいつらは皆同じ事を考えていたと思う。

昨年起きた畑荒らし、その犯人と目された「オレンジ」、同じ菜園から猫の骨が出た、そして「オレンジ」には『野良猫を殺している』という噂があったこと、、、

畑荒らしは犯人不明のままだ。
「オレンジ」の猫殺しの噂が本当かなんて誰も知らない。

そもそも「オレンジ」に纏わる数々の噂を心から信じていた奴なんていないと思う。
でも猫の骨が見つかったのは事実だ。

忘れていた噂が思い出されて、けれどその頃には「オレンジ」の消息は誰にも分からなかった。

怖いのに、何を怖がればいいのかすら分からなかった。

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