今から30年位前の大学生の頃の話。
ワンルームの古いアパートを借りて住んでいた。
風呂なしでトイレは共同。
それでも特に困る事なく暮らしていた。
そこに住み始めて半年くらい経った頃、ある違和感に気づいた。
帰るとやかんにお湯が沸かしてあったり、空っぽの冷蔵庫に食糧が入っていたり、身に覚えの無い出来事が何回も起きるようになった。
もちろん彼女はいなかったし親が来ている訳でもない。
万年床、汚部屋はそのままだった。
俺はその食糧を食べる事もなく、やかんは丁寧に洗って使っていた。
しかし、またしばらくすると冷蔵庫に食糧が入っている。
さすがに気持ち悪なり管理人へ相談してみた。
そこで発覚した。
二重貸しの手違いだった。
俺と同じくらいの年齢の大学生の男性らしい。
その時は原因がわかってホッとしたんだけど、よく考えたらその男性と鉢合わせした事がなかった。
部屋も綺麗になるわけでも汚れるわけでもない。
ただお湯が沸かしてあった事と冷蔵庫の食糧だけ。
数ヶ月後くらいにそのアパートは引っ越した。
次のアパートも古かったけど駅からわりと近くて快適だった。
ワンルームは変わらず、でもトイレも風呂もあった。
彼女は相変わらず出来なかった。
1ヵ月くらい住み続けていた頃、またしても不思議な事があった。
冷蔵庫に身に覚えのない食糧。
食パン、牛乳、タマゴなどの何気ない物。
前回の事もあるし怖くなってまた管理人に連絡した。
しかし今回は二重貸しではないらしい。
管理人も盗られた物は無いかなど色々相談にのってくれたが、何も盗られていないし様子をみるという感じで話は終わった。
それから特に何も無く、もしかして自分の勘違いだったかな?と思い始めてきた。
夏休みになり2週間くらい実家へ帰省した。
そしてアパートに戻った時、自分の勘違いではないと確信した。
またタマゴが冷蔵庫に入っていて、その製造月日が俺が留守にしている時と重なっていたからだ。
これは誰かが俺の部屋に入っている!間違いないと思い近くの交番へ駆け込んだ。
警官は俺の話を真剣に聞いてくれたけど、住所氏名などを書かせ「報告しておきます」と言うだけで帰された。
今みたいにスマホもないし近くに公衆電話も無く、友人に助けを求める事も出来ず。
部屋の窓の鍵を確認し玄関のチェーンをしっかり掛けて、その日は寝た。
次の日、大学でその話をすると「あしながおじさんじゃない?」みたいに言われ相手にされなかったが、俺が真剣に話し続けているのをみて「本当の話なのか?」と信じてくれた。
そして、わりと近所に住んでいたAが俺がバイトで不在時に来てくれると言い出してくれた。
Aに留守番を頼んだのは数回。
しかし特に何事も無く、誰かが尋ねて来た事も無かったらしい。
Aはその後、突然大学を辞めてしまい疎遠になった。
何をしているのかも分からない。
不思議なのは、当時の大学の同級生みんなに聞いても誰もAを覚えていない。
そんな奴知らないと言う。
俺のその不思議な話も覚えていないと言う。
あの時、その話をしたのはAを含めた4人だったが、他の奴らは全く覚えていないと言う。
冷蔵庫に食糧を入れていたのがAだとは思わないが、俺の中でたまに思い出しては納得出来ない不思議な話だ。
ずっと不思議に思っていて、自分でも消化しきれずにいたので書かせてもらいました。
変な奴だと思われるのが嫌で、結婚した今は誰にも話していません。