ストーカーになる原因(その1)

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

このお話は3話続きです。
※長編

俺男:都内大学生(18)
山田菜美:都内大学生(18)
吉村和夫:フリーター(27)

大学に入ってしばらくした頃、
今までバイトってものをやったことがなかった俺は人生経験のためにバイトを始めた。

そのバイト先の先輩に吉村という男がいた。
小太りで、服や髪は秋葉系の人だった。
無口で冗談などはほとんど言わず、自分の興味のあることだけを延々と話すような人でかなりとっつきにくい人だった。

俺とシフトが重なったとき、吉村はよく俺に彼女の話をしてた。

吉村:「もうすぐ俺、結婚するんだよ。彼女、ストレートの黒髪で、すごくかわいい子なんだ」

吉村はそんな話を延々と続けてた。
一応バイトの先輩だし、他にこの人と盛り上がれそうな話題もなかったので、俺はいつも聞き役に徹し、適当に相槌打ったりして時間が過ぎるのを待った。

ある日、バイト先近くのファミレスで友達と待ち合わせをした。
ファミレスに入って店内を見渡してみたけど、まだ友達は来てなかった。
しかし、ファミレスの一番奥の席には意外な人物がいた。
吉村だ。

こちらからでは後姿しか見えないが、吉村の前には女性が座っており二人で話し込んでるようだった。

正直、吉村のプライベートに踏み込む気は全くなかったけど、ガラ空きの店内でバイト先の先輩がいるのにあいさつしないのも不自然だと思って、吉村に声を掛けた。

俺:「こんにちは。吉村さん。今日はデートですか?」

吉村:「ああ。今ちょっと彼女と難しい話してるんだよ」

吉村は素っ気無くぶっきらぼうに答えた。
しかし、俺の声に反応して振り返った女性は、涙を流しながら首を振って「違うんです。付き合ってないんです」と言った。

俺:「え?・・・」

意味が分からない。
俺がしばらく固まってたら「お願いです。助けて下さい」と女性から泣きながらお願いされた。

この女性が菜美だ。

男:「おい、あんちゃん。おまえこいつの友達か?」

呆然としてる俺に、吉村たちの隣に座ってた男が話掛けて来た。
隣に座ってたのは、二人とも30代半ばぐらいのおじさんたちだった。
ガラの悪いシャツにパンチパーマ、オールバックといったファッションでどう見ても健全な商売の人間には見えなかった。

どうも、吉村は彼女と二人だけじゃなくてその横のテーブルに座る柄の悪い二人組とも連れだったみたいだ。

菜美は清楚で大人しそうな感じ。
吉村はいつも通りの秋葉系。
吉村たち真面目組とこの柄の悪い二人組とは全く接点無さそうだったんで、連れだとは思いもしなかった。

手前側に座ってたやくざ風の男は立ち上がると「あんちゃん、悪いことは言わねえよ。そんなに仲良くないなら、こいつらとは関わらない方がいいよ」と言って、俺の肩をポンと叩いた。

吉村は無言だった。
菜美の方は、涙をポロポロ流しながら、目から助けて光線を俺に発している。

俺:「あの、とりあえずトイレ行って来ますね」

そう言って、俺はトイレに向かった。

トイレに向かうまでに、状況を整理して考えた。
吉村&菜美組と、やくざ風の男×2組は、どう見ても友人関係ではない。
また、菜美が泣いているところからすると、何らかの理由で彼らはやくざ組に脅されてるんだろう。

そうだ・・・きっと二人は、チンピラに絡まれてるんだ!

俺はそういう結論に達した。

俺はトイレの大きい方に入って、小声で警察に電話し友達がヤクザに脅されてるから来て欲しいと伝えた。

電話を掛け終えた後、数分トイレで待機してから吉村たちの方へ向かった。
数分待ったのは、少しでもあの居心地の悪そうな場所にいる時間を減らすためだ。
吉村たちの席に向かったのは、人数が増えれば、やくざ風の男たちも絡みにくいだろうと思ったからだ。
ぶっちゃけ、絡まれてるのを見捨ててバイト先での人間関係を悪くしたくないという打算もあったけど。

もうすぐ警察も来るし、しばらく我慢すればいいだけだ。
そう自分に言い聞かせて、俺はトイレから出た。

俺:「あの、俺も話聞きます」

ヤクザ男:「いや、こっちはそれでもいいけどさ。あんた、ホントにいいの?こいつらの借金の話してるんだよ?」

俺:「え?借金?この二人のですか?」

菜美:「違うんです。お願いです。助けてください」

菜美は涙で化粧は落ちてまくりで、脂汗タラタラで顔は真っ青だった。

ヤクザたちは借金だと言い、菜美は違うと言う。
とりあえず俺は、一番信用できそうな菜美を信用することにして吉村たちの席に座った。

座ってから、俺は一言もしゃべらず吉村と菜美の話を聞いてるだけだった。
話を聞く限りでは、どうも吉村は、菜美に風俗で働くようお願いしてるようだった。
菜美は「無理です」とか「お願いです。もう帰してください」とか、涙を流しながら平身低頭な懇願を繰り返すばかりだった。

俺が席についてから5分もしないうちに警官が到着して俺たちは全員警察署に連れて行かれた。

ヤクザ風の男たちは「俺たち何もしてねえよ?何でだよ?」と抵抗してたけど、警察は問答無用だった。

警察署で事情聴取を受けて取り調べ用の部屋を出ると別の部屋から菜美が出てきて、俺に話しかけてきた。

菜美:「ありがとうございました。助かりました。ぜひお礼をさせてください。連絡先教えてもらえませんか」

俺が携帯の番号を聞くと、菜美はまた部屋へと戻って行った。
別にお礼なんかいらなかったけど、それぞれ話が食い違ってた理由と「付き合ってない」と言った意味が知りたくて、俺は番号を教えた。

その日の夜、菜美から電話があった。

お礼の品物を渡したいので自宅を教えてほしいと言われた。
俺は、お礼はいらないと言い、代わりに少し話がしたいから喫茶店で会わないかと提案した。
菜美は承諾してくれ、俺の最寄り駅近くの喫茶店まで出てくると言った。

だが、待ち合わせ時間が夜になるし、今日のこともあるので、菜美の自宅から遠いところでは危ないと思った。
結局、菜美の最寄り駅の一つ隣の駅の近くの喫茶店で会うことになった。

一つ駅をずらしたのは、
菜美の自宅の最寄り駅が、やくざ風の男たちに絡まれた駅、つまりバイト先の最寄駅だったからだ。

喫茶店で見た菜美は前日の泣き崩れた菜美とは別人のようで、吉村がよく話してるように、きれいな黒髪のストレートがよく似合う、清楚な雰囲気の美人だった。

自己紹介を一通り終えその後、お礼と謙遜を言い合ったりとか菓子折りを渡そうとするので「結構です」と押し返したりなどの定例の社交辞令の後、菜美から昨日の顛末を聞いた。

驚いたことに、菜美は吉村とは知り合いでもないと言う。
菜美が言うには、事件のあった日、路上で吉村に唐突に「借金のことで話がある」と話しかけられたらしい。

菜美の家は母子家庭で、あまり裕福ではないそうだ。
このため、東京の大学に娘を進学させるために借金をし菜美は、てっきりその話なのかと思って、吉村の誘いに乗って喫茶店について行ってしまったらしい。
そして、本題に入らないままファミレスで茶飲み話をしていると吉村に呼び出しに応じて後からヤクザ風の男たちがやって来て吉村を含めた三人に囲まれてしまったらしい。

ヤクザ風の男たちは「俺らここで待ってるからよ。二人で話をつけろや」と言い、菜美たちの横のテーブルに陣取ったらしい。

やくざ風の男たちが来てから、初めて吉村は借金の話を始めた。
実は、吉村は街金から借金しており返済資金に困っているので返済に力を貸して欲しいと、泣きながらお願いされたとのことだった。
力を貸すってのは、つまり風俗で働くってことだ。

理不尽な話なので最初は「何で私が・・・」とか「関係ありませんから」などと反論して席を立って帰ろうとしたらしい。
だが、席を立とうとすると、吉村に腕を掴まれて無理やり引き戻されまた、やくざ風の男たちからも「話のケリもつけずに帰ろうってのか?なめてんのか?てめえは?」と凄まれたりしたので、怖くて帰ることが出来なくなってしまったらしい。

あまりに意外なストーリーを俺は呆然と聞いてた。
だが、そのとき俺は、菜美の話をあまり信じてなかった。
見ず知らずの女に「自分の借金返済のために風俗で働いてくれ」と頼むやつなんて、現実にいるわけないだろ、と思ってた。

俺:「山田さん、もしかして○○駅近くの○○と××駅近くの△△でバイトしてるんじゃないの?」

菜美:「え?・・・・・・何でご存知なんですか?」

俺:「吉村さんから聞いてるからだけど。山田さんは見ず知らずだって言ってるけど、どうして吉村さんは、そのこと知ってるのかな?それから、もしかして自宅近くにファミマあるんじゃない?吉村さん、よくそこで山田さんが何買ったとか話してたよ。」

俺:「本当に、見ず知らずの人なの?吉村さん、山田さんとの結婚考えてるって言ってたよ。トラブルに巻き込まれたくない気持ちはよく分かるけどでも、見ず知らずの他人なんて言い方したら、吉村さん可哀想だよ」

菜美はきっと、トラブルから逃げたくて、吉村と赤の他人のふりしてるんだろう。
そう考えた俺は、菜美に不快感を感じて、つい意地悪なことを言ってしまった。
意地悪な問いかけによって菜美は開き直って、少しは本当のことでも話すのかと思った。

だが菜美は、この話を聞いてガタガタ震え出し、泣き出してしまった。
涙も拭きもせずにうつむいたまま脂汗流しており、顔は真っ青だった。
とても演技とは思えない狼狽ぶりだった。

俺「・・・・・。もしかして、本当に見ず知らずの他人なの?」

菜美は声も出さず、真っ青な顔を何度もたてに強く振るだけだった。
たてに振る顔は、いつの間にか、初めて会ったときのようなグシャグシャの泣き顔だった。
あまりにも取り乱したので、この話は中止して、俺は菜美を励まして少し落ち着かせた。

菜美は、まだ東京に来たばかりで、
頼れる友達もいないのにこんな事件に巻き込まれどうしたらいいか分からないと泣くばかりだった。

仕方なく俺は「俺でよければ、出来ることならするよ、力になるから大丈夫。少しは頼りにしてよ」というようなことを言って、菜美を励ました。

だけど内心では「街金は、さすがに手に負えないなあ」と思ってた。

そんなわけで、俺は成り行き上、菜美とよく連絡をとるようになった。
ほぼ初対面の俺に頼らざるを得ないぐらい、菜美は困ってたんだろう。

その後すぐ分かったことだけど、街金も吉村も「借金の返済方法について相談しただけ」ということで、すぐに釈放された。

※ストーカーになる原因(その2)に続く・・・。

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