喪服を着た老婆(前編)

カテゴリー「怨念・呪い」

※このお話には【喪服を着た老婆(後編)】があります。

高校生の頃、俺達のクラスに短期交換留学生が2人やってきた。
そいつらとの出来事を書こうと思う。

そいつらが来てから暫らくして、クラスの女子たちが留学生2人の事を軽く無視し始めた。
その時は原因は良く解らなかったが、俺たちはとくに深く考えず、差別するのも良くないと、留学生2人と仲良くしていた。
2人ともいいやつで、日本のことも好きだというし、ぶっちゃけ当時は、なんで女子から嫌われていたのか解らなかった。

そんな事が続いた夏休み少し前のある日、俺たちは以前から気になっていた、廃墟になっている空き家へ肝試しに行こうと計画をした。
行くメンバーは、俺、A、B、Cと、留学生のD、Eの6人。
DとEは当初メンバーに入っておらず、一緒に行きたいと言われたときも、あまり人数が多くなるとゴタゴタしそうなので断ったのだが、迷惑はかけないからと押し切られて連れて行く事にした。

当日土曜の夜8時頃、俺たちは空き家から一番近いBの家に泊まるという名目で集合し、そのままBの家で10時まで時間を潰してから、現地へと向かった。

少し山道を登った先にある廃墟の空き家は、懐中電灯に照らされてやけに大きく見え、昼間見るのとは桁違いに不気味だったのを覚えている。
空き家に近付くと、どこから仕入れてきたのか、Aが「裏の勝手口のドアの鍵が壊れてて、そこから入れるらしいぞ」と言ってきた。

雑草を掻き分け裏に回ると、勝手口ではなくただの裏口っぽかったが、たしかに鍵の壊れた扉があり、みんな一瞬躊躇したが、中へ入る事にした。

ドアを開けて中に入ると、そこには先が真っ暗でよく見えない廊下が続いていた。
以前にも誰かが侵入した事があるようで、埃まみれの板張りの床にはいくつか靴跡も確認できる。
やはりここは有名なようで、俺たちのように肝試しにやってくるやつは結構いるようだった。

廊下を進むと、すぐに板張りされて更に何か色々と荷物が置かれて封鎖されている玄関に出た。
玄関の左手には和室らしき部屋が、右側は暗くてよく見えないが、ガラス張りの戸になっているので恐らく台所だろうか、そして、台所のあるらしき側の壁に、二階へと続く階段がある。

俺たちは、まず左手の和室らしき部屋に入る事にした。
中に入ると結構広く、8畳くらいの部屋が2つ、真ん中を襖で仕切る構造になっている。
家具類は一切無いが、なぜかぼろぼろの座布団が一枚だけ落ちていたのを覚えている。

とくに何も無さそうなので、俺たちが外に出ようとすると、Cが何かを見つけたらしく、「ここ開くっぽいぞ」と床の間の辺りにしゃがみこんだ。
俺も言われて気付いたのだが、床の間の板張りの部分が一部ずれていて、どうもそこの板だけ取り外せるようになっているようだった。

先に部屋から出ていたA、Bと留学生2人も戻ってきたところで、最初にみつけたCが板を外してみた。
板を外すと、そこには幅40cmくらい、深さ30cmくらいの空間があり、中にこげ茶色の木の箱があった。
Cが板をあけた時の勢いのまま木箱を取り出し蓋を開けると、中には更に小さい桐製と思われる小さな小箱が納められている。
小箱そのものは何年も放置されていたせいか、黒く変色しカビらしきものも生えているが、明らかに高そうな品物を入れているっぽいつくりだった。

Cも流石に躊躇したのか、桐の小箱に伸ばした手が一瞬とまった。
が、Bの「早くしろよ」という言葉におされて、そのまま箱の中から小箱を取り出し、蓋を開け中身を取り出した。
中には、素人目にも高そうに見える懐中時計が入っていた。

そのとき、さっきまであまり喋っていなかった留学生の片割れのDが、カタコトの日本語で、「それ、高いの?」と聞いてきた。

俺は、「よくわかんないけど、たぶん高いんじゃないかな。なんか金っぽい装飾もあるし、骨董品っぽいし」と返すと、DもEもそのことに興味津々っぽいようだった。

でも俺たちは、当然持ち帰る気は無かった。
当たり前の事だが、こんな怪しい場所に、明らかに『隠されてた』ようなものだ。
当然相応の理由があるはずだ。

そんな話をしていると、BとCの「・・・うわ」という声がした。
何かにどん引きしているようだ。

2人の見ているほうを見ると、どん引きしているものの正体にすぐに気付いた。

最初のでかい方の木箱が入っていたスペース、箱を出した時は気付かなかったのだが、底のほうに明らかにお札と解る、変色した紙くずが大量に落ちている。

Bが「この時計やばいって・・・早く戻して帰ろう・・・」というと、Cも「だな、ちょっと洒落にならんわ・・・」と、時計を箱の中に戻した。

その時、メキメキメキッ!と大きな音がして、Aが胸の辺りまで下に落っこちた!

どうも、Aのいた辺りの畳と床板が腐っていたらしい。
Aは「いった~」と声をあげて暫らく痛そうな顔をしていたが、怪我は無さそうで、「足が地面につかないから上に上がれない。引き上げてくれよ」と元気そうに言ってきた。

どうやら下は、すぐに地面では無く結構深いらしい。
Aは開いた穴にぶら下がるような形になっているようだ。

俺たちはそのマヌケな姿に、さっきまでの気味の悪さから来る恐怖心も吹っ飛び、Aを「かっこわる~」とAを指差しながらゲラゲラ笑った。
この間、DとEは殆ど俺たちと絡まず、2人でずっと何か話していた。
こういう状況なのに妙におとなしいのを、少し怪しむべきだったかもしれない。

が、そのままにしておくわけにはいかないので、俺とBとCがAの背後と左右にまわり引っ張りあげようとした。

しかし、どうも床板の部分が“かえし”のようになってしまているらしく、力ずくで引っ張りあげようとしても無理そうな感じだった。

さてどうしようかと考えていると、Aが「ちょっと静かに、なんか上から聞こえる」と言ってきた。
耳を澄ますと、微かだが二階のほうから何か聞こえてくる。

「カリ・・・カリ・・・カリ・・・」

壁か床を爪で引っ掻くような、そんな感じの音だ。
DとEはお札にはあまり反応しなかったのだが、流石にこの状況の異常さはきついらしく、かなり不安そうな顔をしている。
というか、よくみると男同士なのに手を繋いでいる・・・音はなおも二階から聞こえている。

Cが「ここ、俺たち以外誰もいないはずだよな・・・上に誰かいるってことは無いよな・・・?」というと、
Bが俺に「なあ、2人でちょと確認に行かないか・・・」と言ってきた。
Aがかなり不安そうに「俺このままかよ!」というと、「CとDとEでAを引き上げてくれ。俺たち見に行ってくる」と、俺を誘って部屋を出た。

まず言いだしっぺのBが階段を上り、俺がその後に続いたのだが、Bが階段を登りきる辺りで立ち止まり動かなくなった。

俺が「おいBどうした?何かいたのか?」というと、Bは「しっ!静かに」といって、階段を登りきった先のほうを凝視している。
暫らくするとBは、「おい、ゆっくりだ、騒がずゆっくり逃げるぞ」と小声で言い、俺に後ろに下がるように言ってきた。

どうもBは、二階に何かを見たらしい。
俺が「なんだ、何かいたのか?」というと、Bは「後で話す、ここはヤバイ、早く逃げよう」とだけ言った。

そして俺が降り始めたとき、突然Bが「こっち見た!やばい!早く下りろ!」と叫び出した。
何がなんだか解らず俺は階段を駆け下り、A達のところに向かうと、まだAは引き上げられていなかった。
Bが「何やってんだ!早くしろって!ここから逃げるぞ!」というと、AもCも事態がつかめず、「なんだよB、何があったんだ?」と不安そうに聞いてきた。

その時、天井から聞こえていた何かを引っ掻く音が、「ガリガリガリガリガリ!」と急に激しい音になり、次いで・・・「ギシ・・・ギシ」と、二階を誰かが歩く音が聞こえてきた。
足音はゆっくりとだが、階段の方へ向かっているように聞こえる。

流石に俺とA、Cも何かヤバイという事が解り、無理矢理にでもAを引き上げようと、力いっぱい引っ張る事にした。
その時、ふと俺が顔を上げたとき、床の間の方に信じられないものを見た。
なんと、DとEが懐中時計の入った箱を手に持ち、俺たちを置いて逃げようとしている。

俺は、「おいD、Eお前ら何やってんだ!そんな事してる場合じゃないだろ、こっちきてA助けるの手伝えよ!」というと、2人は一瞬こちらを振り向いたが、そもまま部屋を出て逃げて行ってしまった。

ありえない。
この状況でこんな事できる神経が信じられなかった。

一瞬、俺とBが2人を追いかけようとしたが、まずはAを助けるのが先と気付き追うのをやめた。

そして、“かえし”になっている床板部分が問題という事で、急いでその部分を踏みつけて崩していると、とうとう足音が階段の近くまでやってきた。
そしてまた、「ガリガリガリガリガリ!」と、激しく壁か床を引っ掻く音が聞こえてくる。

俺たちはかなり焦っていた。
夏場で熱いのもあるが、明らかにそれとは違ういやな汗をかいていた。

・・・ミシ。

音はとうとう階段を下り始めた。
そのとき、やっとの事でAを引き上げることに成功した。
俺たちは大急ぎで部屋を出ると、もと来た廊下を戻り外に出た。
その時、俺は一瞬だが階段のところに人の足を見た。
一瞬だったので良く解らなかったが、白い足袋を履いているように見えた。

そして全員裏口から外に出ると、そのまま外に停めてあった自転車に乗り、全力でBの家まで逃げ帰った。

Bの部屋に入ると、Bがやっと廃屋の二階で見た事を話し始めた。
階段を登りきる辺りで、Bは何かを引っ掻くような音が、二階の部屋ではなく、二階にある壁そのものから聞こえている事に気付いたらしい。
そして、音のする壁がどこなのか探していると、月明かりに照らされた一番奥の壁に、何か黒っぽいしみのようなものがあるのを発見した。
音はどうやら、その壁から聞こえてきているようだったという。

ここまで聞いて俺は、「それだと、その壁のある部屋の中から聞こえているって可能性もあるんじゃね?」と聞くと、Bは「いや、それなら音が少しこもるから解るだろ。まあ説明するから聞いてくれ」といって話を続けた。

黒い沁みのようなものを凝視していると、まず壁から人の手が伸びてきて壁を引っ掻き出し、次に顔、体、足という順に、喪服を着てガリガリに痩せた老婆?のような人影が出てきたらしい。
そしてその老婆は、完全に壁から出てくると廊下に正座し、壁をガリガリとまた引っ掻き出したんだという。

Bはここまで話すと一瞬身震いして、右手で左腕の肩の辺りを触りながら、「俺、それをじっとみてたんだよ。そしたらさ、その婆さんがこっちを振り返って、ニヤニヤって感じで笑ったんだよ・・・」と。
それで俺に、「こっち見た、早く逃げろと」言った部分に繋がるらしい。

Bは続けて、「あのニヤニヤ顔はヤバかった・・・月明かりだけで薄暗かったけど、『悪意のある顔』ってのがどういうものか、俺はほんと良く解ったよ・・・」と、そして「あの顔一生忘れられねーよ・・・」と、頭を抱えて黙ってしまった。

Bの態度を見て全員沈黙してしまったのだが、暫らくしてAが、「そんな事よりDとEだ、あいつら最悪だろ!俺たち見捨てて逃げやがった!」とかなり怒っている。

Aは自分が一番危ない状況だったのだから当たり前だが。

※喪服を着た老婆(後編)へ続く

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