喪服を着た老婆(後編)

カテゴリー「怨念・呪い」

※このお話には【喪服を着た老婆(前編)】があります。

そして俺が、「あいつら見捨てて逃げただけじゃないぞ。あの時見つけた懐中時計を盗んで逃げやがった。しんじらんねぇよ・・・」と、懐中時計が盗まれている事も皆に教えた。
その日はそのままBの家に泊まり、DとEに文句言うのは月曜ということになった。

月曜日、俺たちが学校へ行くと、DとEは予想通り俺たちを避けていた。
文句を言おうにも、授業が終ると教室の外へ行き、次の授業まで帰ってこない。
そんな状態が暫らく続いた。
その間俺たちは、DとEの話をクラスのみんなに話したのだが、その時初めて、何故女子が無視していたのかを知った。

なんとDとEは、女子相手にクラスの男子の陰口や自分達の自慢話をしていて、それで嫌われていたらしいのだ。
その結果、3日もしないうちにDとEはクラスで完全に孤立した。

それから数日後、俺たちはこの事件がまだ終わっていない事を思い知らされた。
最初の変化はBのところに現れた。
Bによると、夜中寝ていると、Bの部屋の窓のところに老婆が現れ、一晩中ガラスを引っ掻いていたらしい。
そして同じ老婆が、その一日後にA、更に1日あけて俺ところにもやってきた。
ただ窓辺に立って引っ掻く音を立てるだけで、実害らしい実害はなかったが、空き家であれの顔を見ていたBはかなり怯えていた。

俺のところに老婆がやってきた翌朝、その事を教室で話していると、Aが「もしかして・・・」と携帯を弄り始めた。
何かと思ってみていると、Aは携帯の地図を見せながら、「ここがBの家で、ここが空き家で・・・」と説明し始めたのだが、俺はその意味がすぐに解った。

「問題の空き家から近い順に回っている?でもなんで?」とBが言うと、Aは「解らないけど、もしかして例の懐中時計を探しているとか・・・?」と言った。

可能性はある・・・。
でも、懐中時計を持っていったのはDとEで、俺たちは関係が無い。
Cもそう思ったのか、「俺たち関係ねーじゃん、なんで付き纏われるんだよ」という。

確かに、懐中時計が原因だとすると凄く理不尽だ。
そして肝心のDとEなのだが、2人がホームステイしている家は、あの日のメンバーの中で一番空き家から遠い。
俺たちが考えている通りならば、まだ留学生2人のところにも来る可能性はあった。

とにかく、次は距離的にCのところに老婆が来る可能性が凄く高いので、一応部屋に盛り塩をして警戒しよう、という話になった。
何かあるにしても、それはDとEに対してであって、Cのとろこに来ても、俺たち3人に起きた程度のことだろうと、タカを括っていたからだった。

Cの家に来る予定だった日の翌朝、学校へ行くと、Cが入院したと言う話を聞かされた。
詳しく聞いてみると、入院と言ってもすぐに退院できる程度らしい。

放課後俺たちが病院へ行くと、擦り傷だらけで真っ青な顔のCが、ベッドに横になっていた。
意識もあるしぱっと見怪我も大した事無さそうだが、精神的に相当まいっているようだ。
俺たちはCに何があったのか事情を聞いた。(以下はCの話)

Cが夜寝ていると、俺たちのときと同じように窓のあたりから、「・・・カリ・・・カリ」と、何かを引っ掻くような音が聞こえてきたらしい。
Cはとにかく気にしないように、窓とは反対方向を向いて寝ていたのだが、はじめ外から聞こえていた引っ掻く音が、暫らくすると“部屋の中から”聞こえるようになった。

なにかおかしい・・・。
そう思ったCが寝返りをうつ振りをして窓の方を見たとき、なんと自分の顔のすぐ横にやつの顔があり、やつはニヤニヤという感じの、明らかに悪意のある顔でCを覗き込んでいた。

びっくりして布団から飛びのくと、そのままやつはニヤニヤと笑いながら、両手を伸ばして近付いてきたらしい。

「盛り塩なんて何の役にも立たなかった」とCは言っていた。

Cは部屋から飛び出して1階まで逃げたのだが、やつはCをずっと追いかけてきた。
それでパニックになり、Cは玄関から飛び出して外に逃げ出した。
ただ、その時は勢いで外に逃げ出したので、その後どうすればいいか全く考えておらず、とにかくあても無く夜道を走り続け、ふと目に付いた小さな神社に逃げ込んだ。

そして、拝殿の中に逃げ込み、そのまま朝まで篭城するつもりだったらしい。
だが、Cの目論みは外れてしまった。

神社の中なら大丈夫だろうと思っていたらしいが、暫らく拝殿の周囲を歩き回っていたがやつは、何なく拝殿の扉をすり抜け、

「ハハハハハ!ヒュー・・・」

「ハハハハハ!ヒュー・・・」

・・・と、喘息患者みたいな呼吸と笑い声を上げながらCに近付くと、Cの首を絞め始めた。

Cは『あ、俺こんな事で死ぬのか・・・』と思いながら気を失ったらしい。

翌朝、Cは神社に掃除に来たお爺さんに発見され、そのまま救急車で病院へ運ばれ今に至ると。
病室でCは続けてこう言った。

C:「あいつ婆さんじゃなかった・・・ガリガリに痩せてたからぱっと見婆さんに見えたけど、声は明らかに若かった・・・たぶん、20代くらいなんじゃ無いかと思う」

色々とんでもない話だったが、一番とんでもなかったのはCが殺されかけたって事で、話を聞いて相当ショックを受けた。
俺たちとCに何か違いがあったのか、それとも俺達はただ偶然助かっただけなのか、原因がさっぱり解らない。
Cは体に異常は無いとうことらしく、その日1日入院するだけで退院できた。

翌日は1学期の終業式で、授業もなく学校が早く終った。
しかし、俺たちは担任に生徒指導室へと呼ばれた。
担任の話はこうだった。

俺たちがDとEを連れて空き家に肝試しに行き、そこでDとEを置き去りにしたと。
そして、学校に来てからも2人を泥棒呼ばわりして、クラス全員で無視していると。

しんじられん、最悪だ。
それが俺の率直な感想だった。

DとEがやけに最近余裕そうな顔をしていると思ったら、ある事無いこと担任にチクって、俺たちを完全に悪者にしていたのだ。
そして担任は、DとEをこれから呼ぶから、お前たちは2人に謝罪しろと言い出した。

俺もAもBもCも相当ムカついたが、まずは誤解を解かないといけないので、担任にあの日あった事を、すべてありのままに話した。
・・・が、まったく取り合ってくれない。

挙句に、「D君とE君が嘘をついているとでも言うのか!」と逆切れし始めた。
どうやら、こっちの話ははじめから聞く耳持たないらしい。
それどころか、謝罪しないなら内申にも響くし、親を呼んで生徒指導をするとまで言い出した。

その一言で俺たちも完全にぶち切れ担任と口喧嘩になり、「親呼ぶなら呼べば良いじゃないですか!」と捨て台詞を残して、そのまま生徒指導室を出た。

翌日、なぜか親は呼ばれなかったが、俺たちは学校に再び呼び出された。
生徒指導室に入ると、担任はみょうにヘラヘラしていて、昨日あれだけ喧嘩したのに、やけに馴れ馴れしい。

担任の話はこうだった。「D君E君とお前たちの意見に行き違いがあったらしいから、昨日の話はなかった事にする。ただ、2人を肝試しに連れて行った責任はお前たちにもあるから、これはお前たちが責任もって返してきてくれ」

そういうと、担任は例の桐の小箱にはいった懐中時計を長机に置いた。
意味が解らない。

後から知ったのだが、こんな事を言い出した事の顛末はこうだった。

予想通り、DとEのところに、あのガリガリに痩せた喪服の女が現れたのは確実のようだ、そして、恐らくCがあったの以上に酷い目にあったのだろう。
ビビりまくったDとEは、その日の朝に、駅の近くにある質屋に懐中時計を持ち込んで売ろうとしたのだが、当然の事だが店主に怪しまれ、それで騒ぎとなり、担任やホームステイ先の人たちまで質屋に呼び出され、逃げられなくなって事の真相をゲロったらしい。
それで今、それでも2人の肩を持とうとする担任が、こんな都合のいい話をし始めたと。

当然の事だが、ここまでバカにされて言う通りにする義理など俺たちには無い。

Aがキレ気味に、「なら先生が返しに行けば良いんじゃないっすか、俺たちがそこまでしてやる義理ないし」というと、そのまま生徒指導室を出て行ってしまった。
俺もBもCも顔を見合わせ、Aのあとをついて生徒指導室を出た。

この後、俺たちにはとくに何もなかったのだが、3つ後日談がある。

まず一つ目。
担任のその後なのだが、休みが明けると学校には来ておらず、始業式では、病気療養のため長期入院する事になったと言っていた。
あの懐中時計を持っていたのだから、恐らく何かあったのだろう事だけは容易に想像が付いた。
何があったのかは解らないが、学校にこれなくなるほどだから、余程の事があったのだろう。
出家したなんて噂もあったが、真相は解らない。
その後、卒業まで担任は学校に戻ってくる事はなく、結局別の教師が俺たちを受け持つ事になった。

ちなみに、懐中時計に関しては、その後どうなったのか完全に不明だった。
三つ目の後日談に関わるので後で書くが、少なくとも空き家には戻されていなかったのが確実だからだ。

二つ目。
問題の留学生2人なのだが、やつらは予定を切り上げて、夏休み中に母国へ帰国した。
で、その見送りに生徒会の役員が何人か行ったらしいのだが、そいつらの話だと、DとEは明らかに様子が変で、げっそりとやつれて、常に周囲をキョロキョロと挙動不審に見ていて、ちょっとした物音にも過剰に反応したとか。
そして、なぜか2人とも、両手をぐるぐる巻きに包帯で巻いていたらしい。

あと、ホームステイ先の家もかなり異常なことになっていて、なにか建物中から線香のような臭いがたちこめ、玄関のところにはあからさまにでかでかとお札が貼ってあり、明らかに家そのものに何かあったのは確実だったとか。

それと、DとEは両親が迎えに来ていたのだが、それ以外に首からロザリオ?を下げた神父か牧師のような人が付き添っていて、一緒に車に乗って帰って行ったそうだ。
ちなみに、その牧師か神父のような人も、日本語が通じていなかったっぽいので、DとEと同じ国の人のようだったと言っていた。

三つ目。
俺は高校卒業後進学して地元を離れたので知らなかったのだが、今年のGWに戻ったときに、あの空き家が道路拡張のために取り壊された、という話を聞いた。
そして、同じく帰って来ていたAから聞いたのだが、どうもAの中学校時代の友達がその解体に関わっていたらしく、Aが変なことなかったか色々聞いていたらしい。

それで聞いた話によると、解体中何度か『喪服を着た女』を見かける人がいたようで、当時少し噂になったとか。

Aの友達も、夕方帰る時に見かけたらしい。

そこで俺は、あれ?と思ってAに聞いてみた。

俺:「あのさ、俺たち、あいつがガリガリに痩せてたから、婆さんと見間違ったんだよな?でも話聞く限り、容姿が違わないか?」

すると、Aもそれを不思議に思って友達に聞いたらしいのだが、その友達曰く「普通の女だった」とかで、「ガリガリでも老婆っぽくもなかった」と、その友達ははっきり言っていたのだという。

それと肝心の懐中時計なのだが、友達曰く「そんなものはなかった」とのこと。
そういうものが現場で見付かれば普通は話題になるのだが、誰もそんな話はしていなかったし、床の間のスペースや箱などは珍しいつくりだったので、友達も覚えていたのだが、「中は空っぽで何も入っていなかった」との事だった。

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