爪とヘビメタ野郎の頭皮

カテゴリー「怨念・呪い」

その日は土曜日で昼過ぎにいつもの駅で降りた。

いきなり声をかけられた。
T先輩だった。
T先輩は地元の怖い人だ。

あの時以来だから2か月ぶり位になる。
駅前の喫茶店に誘われうしろからついていく。

注文した飲み物がテーブルに運ばれてきて、一口飲むとT先輩はきりだした。

バイトの話だ。
バイトはちょっと変わってたがバイト代はセットで5万だ。

長さ30cmの髪の毛を1cm位の束と、切った爪を3カケラ。
これをセットにしてT先輩に渡すだけで5万くれる。

破格だ。
ただし、1週間以内と期限があった。

髪も爪も男女年齢は問わない。
ただし、身内や友人、好きなヤツのはやめとけと言われた。

嫌いな奴か知らない奴のにしとけと言われた。

理由は聞かなかった。

髪の毛は美容師の友達に頼んでみますと言うと、ダメだとT先輩に言われた。
切った髪の毛ではダメだ、抜いたのじゃないとダメだと。

女に無縁な俺は、今回は多分無理そうですと言うと、T先輩はレジで2人分の金を払いながら、まぁ頑張ってみろよと言って笑った。

別れ際、お前の身内か知り合いに産婦人科で働いてる人はいないかと聞かれた。
いないと答えると、50万のバイトがあるのにと笑ってた。

去年までバイトしていた居酒屋の常連さんの中にいたはずと言うと、居酒屋の名前を聞いて、うまくいったらボーナス払うよと言ってにんまりほくそ笑んで背中を向けた。

とりあえず髪の毛は無理そうだが手ぶらの報告が出来るほどの根性はない俺は爪だけ用意しようと考えた。

月曜日は高校の頭髪検査があり爪も対象とされていたから、そこでなんとかするしかない。

そういえば、俺の嫌いなキザで女ったらしの同級生が小指の爪だけ伸ばしているのを思い出した。

月曜日の朝、生徒指導の先生に吹き込んだ。
俺は何気に机の上に準備しておいた百均で買った爪切りを机の上に置いた。
案の定そいつは見つかり、すぐ切るよう指導された。

俺の机の上でアピールされていた爪切りを、先生が借りるぞと言ってそいつに手渡した。
返された爪切りの中の物をティッシュでくるみポケットに入れた。
他の奴のが混ざらないように。

後は、期日にT先輩に詫びを入れ、爪を渡し今回はバイト代はいらないですと言うだけだ。

3日後、思わぬ事に髪の毛が手に入った。
駅前のゲーセンの前で騒いでる集団を見つけ、近寄って見に行った。

1コ上のパンクの先輩と地元では見た事ないロンゲのヘビメタ野郎が殴り合いのケンカをしてた。

凄まじい殴り合いだ。
そのうち、パンクの先輩がロンゲを鷲掴みして投げ飛ばした。
その時ごっそり抜けたというか皮膚ごと剥がれたように見えた。

頭から血を流しうずくまってる所をさらに蹴り続けてたがパトカーの音が聞こえると見物人も含めみんな散っていった。

パンクの先輩から目を離さずいた俺は、捨てられた皮膚付きの髪の毛を拾った。

T先輩に連絡すると、夜この前の喫茶店で会う事になった。

T先輩に袋を渡すと小さく叫んだ。
皮膚付きじゃん。
お前、中々筋がいいよ、うん、とご満悦だったが俺は、気持ち悪く喜べなかった。

約束通り5万渡された。

喫茶店を出る時、この前聞いた居酒屋つぶれてたと笑いながら言ってきた。
例の件は別筋から紹介受けたからとも。

それから1週間位して、俺の嫌いなキザで女ったらしの同級生がバイクで事故した。
夜の国道でトラックとガードレールの間に挟まれ、左手の指を3本切断した。

その年の暮れ、地元の産業廃棄物最終処分場建設反対派のリーダーが自殺したと新聞に小さく載った。

年が明け、初詣に地元の小さな神社に行った。
帰り際T先輩に会った。

年始のあいさつをしようとしたがT先輩は結構呑んでたらしく、そんな事よりお前新聞読んだか?お前のおかげでいい器が出来たよ。

あの器、にわか作りだから上手く行くか不安だったからオリジナルでいろんな物混ぜたんだよ。

大成功(笑)

ただ、ヤバすぎて近くに置いとけない。
抑制できる器にしないとな(笑)

次はプロ相手にできるような、もっとえげつないの作ろうと思ってるから、そん時はまた頼むよと、饒舌だった。

嫌な事と関わった事だけは鈍感な俺でも察しがついた。
同級生のケガは爪と関係あったんだろうか。
地元ではないヘビメタ野郎は無事なのか。

年の初めから気分は落ち込んだ。

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