湿原を追ってくる声

知り合いの話。

山仲間と一緒に湿原を歩いていた時のこと。
遠くの方から「おーい」と呼ばわる声がした。
陰々と甲高いその声は、聞いていてひどく気味が悪かったという。
まるで人でないものが人の真似をしているような、そんな奇妙な感じがした。

どこから呼んでいるんだろう?

そう思ってキョロキョロ辺りを見回す彼に向かって、仲間が忠告した。

仲間:「反応するな。あれはカバケの声だろう。呼ばれて行くと、沼に嵌まるっていう話だぞ」

カバケとは河童化けが訛った名称らしく、人を水に引きずり込む類いの妖怪なのだという。
毎年、麓の川で上がる水死体の何人かは、こいつにやられたのではないか。
そう地元では噂していたそうだ。

二人揃って声を無視することにした。
湿原を抜けてからも声は彼らを追ってきたが、やがて聞こえなくなったという。

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