近所でちょっとした名物老婆がいた。
その人はいつも頭を上下にガクンガクン揺らしながら歩き、誰かに話かけられても決して答えず住んでる場所さえ誰も知らない。
きっと気が触れているから近づいてはいけないと皆して噂していた。
しかし怖いもの知らずの子供がその老婆にこう話かけた。
「おばあちゃんはなんでいつも頭が揺れてるの?」
すると意外にも老婆は返答してきた。
「悪いものに引っ張られているんだよ」
頭の揺れに合わせて話す言葉もグワングワンとうねっていたそうだ。
老婆は続けて「もらってくれるかい?」と聞いてきた。
子供が面白半分にウンと答えた瞬間、老婆の頭の揺れがピタッと止まった。
子供は今まで一度も見たことのない、その老婆のまっすぐこちらを見据えた顔にさすがに怖くなり家に逃げ帰った。
家に着くなり母親に飛びつき事情を説明すると、子供のただならぬ怯えようを心配した母親はすぐに車を出し地元の神社でお祓いをしてもらった。
家路を急ぐ車中から、子供は反対側の歩道をこちらに向かって歩くあの老婆を見つけた。
その頭はガクンガクンと揺れていた。