友人の話。
友人と二人で夏山に籠もっていた時のこと。
夜、そろそろ寝ようかと準備にかかった頃、麓の方から何か聞こえてきた。
・・・リーンリーンリーン・・・。
耳障りな黒電話の音だったという。
思わず二人、顔を見合わせた。
音は段々とこちらへ登ってくるように思われた。
何かは皆目わからないが、得体の知れない物と対面などしたくない・・・。
慌ててその場を撤収し、別の離れた場所へと必死で避ける。
やがて音は彼らより上方へ登っていき、聞こえなくなった。
正体はわからないが、まずやり過ごしたようだ。
一息ついて、そのままその場で就寝することにした。
夜中過ぎ、いきなり友人に揺すり起こされた。
目覚めた彼も直ぐに気が付いた。
斜面の上方から再び、あのリーンという音が段々と下ってくる。
ドタバタと寝具を片付け、麓に向かって逃げ出した。
暗い山道では、なかなか思うように足が進まない。
それもあってか、黒電話は着実に迫ってきている様子。
必死で音を撒こうとあれこれ進路を変えているうちに、嫌なことがわかる。
わかった途端、二人して泣きたくなった。
登っていった時と違って、音は間違いなく彼らの後を追尾していた。
結局、夜を通して逃げ続けることになった。
幸いにも曙光が刺す頃、音はパタッと聞こえなくなったという。
二人は今でも山歩きを続けているが、ちょっとその山には近よれないそうだ。