弟の話だけどいいかな?
弟の引っ越す先の物件は必ずいわくつきというか、出てしまう。
もともとその部屋にいることもあるし、自分が連れて行ってしまう場合もある。
誰に言うつもりもないし、信じてもらうつもりもないけど吐き出したい。
今、自分がいるこの部屋は前に弟が住んでいた部屋だ。
進学の事情でこの辺に引っ越すことになった自分に、弟がこの部屋を譲ってくれた。
弟はここを出て離れた場所に引っ越して行った。
お礼もあって弟の引越しを手伝った。
新築4階建ての最上階。
おしゃれで都会的で、完全オートロック。
4階は3階までと違い1部屋しかなく、フロアのすべてが部屋になっていた。
広くて羨ましかったが、四方が全部窓に囲まれていてなんとなく落ち着かなかった。
弟から電話があったのは引越しが終わったばかりのその日の夜だった。
『風呂に誰かいる・・・』と。
シャワーが勝手に流れ出るし(チョロチョロではなく誰かが浴びているような水量)風呂に入ったら入ったで内側から鍵をかけているのに、いつの間にか少しだけ空いているというものだった。
家に帰れば鍋が戸棚から勝手に出ていたり、同棲した彼女と喧嘩も多くなり、参った弟は2週間でその部屋を出てしまった。
そしてやっぱり元の部屋に戻りたいと言ってきた。
家族は引っ越したばかりだしと止めたが本人は聞かなかった。
しかしもうこの部屋には自分が住んでしまっているため、追い出すことはできず、弟は同じ物件の1つ下の階に住むことになった。
その部屋は今はまだ人が住んでいるが、近々出るし、ハウスクリーニングをしたらすぐに入ってもらって構わないとのことだった。
クリーニングが終わるとすぐに弟はその部屋に入った。
ところが、ハウスクリーニングをしたばかりだというのに、風呂には大量の長い髪の毛が残っていた。
潔癖症が少しある弟は、不動産屋に苦情を言い、もう一度クリーニングしてもらった。
しかしその日も、次の日も、髪の毛は現れる。
さすがに弟もこれがクリーニングの不徹底のせいではないとわかっていた。
弟は視えるがゆえに不本意ながらも修行をおさめた従兄弟に相談することに。
すると、その髪の毛は前に住人(女性)のものだということだった。
その女性はとてもその部屋を気に入っていていた。
しかし、自堕落な生活のために借金がかさみ、家賃も滞納、その部屋を出ていくしか他なかったということだった。
次に入る人が決まったし早く出て行って欲しいというのも彼女にしてみれば追い打ちだったようで、自業自得とはいえ、楽しい思い出が詰まったこの自分の部屋を他人のモノにさせたくないという念がものすごいということだった。
従兄弟は弟にその女性の名前も告げた。
どこにでもある名前というわけでもなく、かといってすごく珍しい名前というわけでもなかった。
弟は不動産屋にこの不可解な現象のことを話した。
不動産屋は何も言わず弟の話をただ「ええ、ええ」と相槌をたまに打ちつつ、一応は聞いてくれていたようだが、弟がその名前を言った途端、顔色が変わった。
不動産屋:「えっ・・・そうです、その名前です。その人です。」
弟は従兄弟に頼んで部屋の念を取ってもらって、今もそこに住んでいる。
自分が今いるこの部屋の階下に住んでいる。
そして最初に「弟の引っ越す先の物件は必ずいわくつきというか出てしまう。」と書いた通り、この部屋も例外ではない。
この部屋でもしっかりとしかもなかなか壮絶なことが起きている。
というか起きていた。
自分が引っ越してからは自分が鈍感なせいかないけれど。
しっかりと四方と玄関に従兄弟が施したお札が貼ってある。
見た人は不気味に感じるだろうし、怪訝そうにされるのも嫌なので事情を知り得たごく親しい友人しか招いてないが、今のところ快適・・・かな・・・。
吐き出せてスッキリした。
終わり。