私の実家は神隠しにあったことがある。
実家がまるごと消えたのだ。
小学校二年生の夏休みだった。
ラジオ体操のあと、二度寝をして、起きたら昼だった。
家には誰もいなくて、おかしいな・・・と庭に出たら、母と兄が花壇の奥にいるのをみつけた。
兄:「へびが死んでる」
兄が言うので、見に行った。
死んでいたのはヤマカガシで、傷もなにもなく、綺麗な死骸だった。
兄が木の枝でつついて、動かないのを見せてくるまで、死んでいるかどうか判断がつかなかった。
三人でひとしきり死骸を眺め、さて昼御飯の用意でも、と立ち上がって振り返ったら、家がなかった。
土台から綺麗さっぱり、消えていた。
家のあった場所は更地になっていて、家の残骸どころか草ひとつ生えていなかった。
私も、兄も、母も、呆然としていた。
ちょうど、隣のおばちゃんが訪ねてきて、家がないのを見て、大騒ぎになった。
集落の人が集まってきて、あれこれ調べてくれたけど、よくわからない。
とにかく家が消えたとしかいいようがない。
父や姉たちが帰って来て、なにがあったと聞かれたけど、説明しようがなかった。
兄は、蛇の死骸をつついたせいで「祟られたのかも・・・」と泣いていた。
私は”家が家出したんだ”と思っていた。
その日は公民館に泊めてもらうことになった。
旅行みたいでちょっと楽しかったのを覚えている。
お風呂やご飯は、ありがたいことに近所の人が助けてくれて、困らなかった。
翌朝、ラジオ体操に行くため、私たち朝早くに起きた。
ラジオ体操をする場所は高台のお寺で、そこまでは長い坂をのぼっていく。
その途中、家の方をみたら、家があった。
慌てて公民館に戻って、親を起こした。
私:「家が帰ってきた」
親:「うそ」
私:「ほんと」
パジャマ姿のままの両親と、家まで走っていった。
昨日消えたはずの実家は、あるべき場所にちゃんと建っていた。
騒ぎを聞き付けた隣のおばちゃんが起きてきて、あとは昨日と同じように、大騒ぎになった。
結局、家が消えた原因も、戻ってきた理由も、よくわからない。
家のなかは消える前も後も変わらなかった。
家財がなくなったとか、間取りが変わったなんてこともない。
一晩消えた以外、おかしなところらなにもなかった。
実家は今も残っていて、両親が住んでいる。
あれ以来、消えたことは一度もない。