出たんでしょ?例のヤツが

カテゴリー「心霊・幽霊」

フリーで仕事をしているので、新しい職場を転々とすることも多く、職場によっては着任時に十分な準備が整っていないこともある。

今から2~3年前に東京の某システム開発会社に着任したときも、ご多分に漏れず準備が十分に整っていなかった。
・・・というよりも、机や椅子、パソコンなど通常の仕事で使用する道具一式は問題なく揃っていたものの、なぜかロッカールームのロッカーに空きが無かったのだ。

自己紹介を済ませ職場の設備を案内してもらう時に”その話”を聞かされた。

その後、実際にロッカールームへ通されると、横幅が約30cmと狭く、縦は約180cmと長い扉が、ズラッと並んだ大型のロッカーがいくつか置かれていた。
それぞれの扉の胸の高さの部分にはネームプレートがあり、使用中のロッカーには名札が付けられ、鍵が抜かれた状態になっている。
その中の一つに、未使用状態のロッカーがあるのを見つけた。

俺:「ここのロッカーは使えないんですか?」

リーダー:「あぁ、ここね。ここはかなり立て付けが悪いので・・・。」

俺:「多少立て付けが悪くても問題ないですよ。」

リーダー:「うーん、でも誰も使ってなかったし、汚れてるからね。」

俺:「それでしたら私が掃除してから使わせていただきますよ。」

リーダー:「そ、そう?だけどなぁ、あんまりお勧めじゃないなぁ。」

ロッカーのハンドルを手前に引くと、立て付けが悪いという話に反してサクッと軽く開いてしまった。

油でも塗ってスムーズになったのかなぁと思い、「どうやら問題なさそうですね。」と言ってから、中を覗き込んでみる。
確かに誰も使っていなかったようで中は大量の埃にまみれていた。

上部にはハンガーを掛ける金属製のパイプがあり、下部は網棚のようになっていて鞄や小物を置くことが出来そうだ。
早速、雑巾片手にロッカー内を掃除し始めた。

掃除をしながら『どうして誰も使っていなかったのだろう?』とか、『あんまりお勧めじゃないってどういう意味だろう・・・』という疑問は沸いたものの、簡単に掃除が完了し、自分の私物を中に収めて一段落した。

その後、10ヶ月ほどは何の問題も無く仕事のほうも順調で、職場の仲間や雰囲気にも慣れてきたのだが、開発も終盤に差し掛かって繁忙期に入り、気がつけば23時を過ぎることが増えてきた。

その日も23時頃になり、俺とリーダーの二人が最後まで残っていたのだが、いざという時の為に予め退室手順を聞いていたので、仕事のキリが良くなったリーダーが先に帰ることになった。

リーダー:「戸締りの方はくれぐれもよろしくね。それからあまり遅くならないようにね。」

俺:「はい、わかりました。お疲れ様でした。」

この職場に着任してから初めて最後の一人になったのだが、俺も地元の私鉄の終電時間が迫っており、何とかキリの良いところまで仕事を仕上げると、例のロッカールームに飛び込んだ。

鍵を回してハンドルの部分をグイッと引っ張る。
いつもなら何の抵抗も無く「カシャン」と軽い音を立てて開くのに、どこかに引っかかったような状態で開かない。

『あれ?何か引っかかったかな?』と思って押したり引いたりしても、中途半端に引っかかり、なかなか開かない。

そこできちんとロッカーの扉を押し戻してから施錠し、一旦鍵を抜いてから、再び鍵を差し込んで開錠。
その後ゆっくりハンドルを引いてみると、今度は何事も無かったようにアッサリと開いた。

私物を取り出す前に、蝶番やハンドルの部分を丹念に調べたのだが、別に引っかかりそうなものは何も無い。
また、スーツや鞄の一部がどこかに引っかかっていたのかと思って調べてみたのだが、そのような形跡も無い。

まもなく終電の時間になってしまうので、細かい調査は翌日することにして、その日は慌てて帰宅した。

翌日出社して、ちょっとした仕事の合間に、ふと昨夜のロッカーの件を思い出しリーダーに話してみた。

俺:「昨日終電間際で慌ててるときにロッカーが空かなくなりましてね。終電に遅れるかと思って冷や冷やしましたよ。」

リーダー:「そ、そうだったんだ。あの・・・。その後、特に問題なかった?」

俺:「えぇ、一応終電にも間に合いましたし・・・。」

リーダー:「そうか、それなら良かった。だけど今後はあまり遅くまで残業しないほうがいいかもね。ノルマがキツければ割り振れる仕事を他の人にも割り振るからね。」

俺:「はい、ありがとうございます。」

リーダー:「ところで、ロッカーなんだけど、どうやって開いたの?」

俺:「押したり引いたり、鍵を入れなおしたりして、何とか開きました。無理やり引っ張ろうと思ったんですけど、壊すとまずいので・・・。」

リーダー:「あぁ、そうだね。無理やり力ずくで引っ張らないほうが良いよ。なんていうか、まぁ、確かに壊れたらまずいもんね。力ずくは良くないよ。特に無理やりはね・・・。」

どことなく様子がおかしいものの、妙に力ずくで空けないように強調するので、逆にそれが喉に刺さった魚の小骨のように心の中にシコリとなって残ってしまった。

その後、何事もなく1週間が過ぎたある晩のこと。
その日は納品直前の晩で、商品に問題がないか最後のテストを終えてから、ふと時間を見るとやはり23時を過ぎていた。

他のメンバーは既に30分ほど前に退社しており、気がつけば再び最後の一人になっていた。

例によって慌ててロッカールームへ飛び込み、鍵を差し込み開錠した後、ハンドルを引っ張ったのだが、先日と同様、何かが引っかかるような形で扉が開かない。
先日の一件があってから扉を閉めるときには、何かが引っかからないよう十分に注意して閉めていたので、少し苛立たしくなったものの、前回と同様に一度きちんと閉めてから、もう一度軽くハンドルを引っ張ってみる。

しかし、今回はどうやってもうまく開かない・・・。

時間も迫ってきており、イライラが募ってきて、ついついグイッと力を入れて無理やり引っ張ってしまった。
あれだけリーダーに「力ずくは良くない」とアドバイスされていたにも関わらず・・・。

扉の引っかかりが外れて少し開いたのだが、まるで内側から引っ張られているかのような・・・均一な抵抗感がある。

それを無視して、さらにハンドルを強く引っ張り続けてから、ふとハンドルに近い部分の扉の内側に目をやると、細くて青白い腕がロッカーの奥の暗闇から伸びていた。
まるで内側から扉を閉めようとしているかのように・・・。

それを見た瞬間は特に何も感じず、ただ「えっ?」と思って何が起こったのかがよく理解できないまま、1~2秒の間うつむいた状態で硬直していたと思う。

その直後、おぞましい気配を感じるのと同時に自分の真正面で何かが動くのに気がつき、すばやく視線を上げると、扉の内側の暗闇から真っ黒でツヤツヤした髪の毛が出て来ようとしている。

よく見るとその髪の毛は人の前頭部の部分で、前髪が顔の大部分を隠していて表情までは見えないものの、その輪郭から痩せた女性であることは間違いなかった。
その女性がロッカーの奥の狭い暗闇からゆっくりと出てこようとしていたのだ。

体中に電流が走るような衝撃があって、思わず「うわぁ!」っと叫んだ後、自分の声で二重にビックリしてロッカールームから逃げ出した。

その後、夢中で階段を駆け下り、電気も消さず、もちろん施錠もせずに会社を飛び出して駅まで走り続け、ポケットに入れてあった小銭で電車に乗り込んで、自宅まで逃げ帰ってきた。

自宅に着いても、先ほど会社で目にしたものが信じられず、寝るのも怖くて家中の明かりを点けたまま膝を抱えてガタガタ震えていたのを覚えている。

翌朝になって周囲も明るくなり、出社の時間になった。

昨夜のことがあってどうしても出社したくなかったのだが、電気も点けっぱなし、鍵も掛けずに飛び出してきたのと、今日は大切な納品日でもあることを思い出し、しぶしぶ準備を整えていつもよりも少し遅い時間に会社へ到着。

既に人がいることを確認した上で、恐る恐るオフィスへ入り、ロッカールームには近寄らずに、リーダーを応接間に招いてから戸締りの不備の件を侘びて、事情を説明することにした。

俺:「あの、実は昨日の晩なんですけど・・・。」

リーダー:「ひょっとしてロッカーの件かな?出たんでしょ?例のヤツが・・・。」

俺:「はぁ、あの、やっぱりご存知でしたか?」

リーダー:「俺は見たことが無いんだけど、これまでにあのロッカーを使った人が何人かいて、全員が体験しているみたいなんだよね。俺が知っているだけでも、過去に3回ほど電気も消さず、施錠もせずに帰宅して、その後まったく連絡が取れなくなった人がいてね・・・。ロッカーで何があったのか、何となく噂には聞いてたんだけど、翌日きちんと出社したのは君が初めてだよ。」

俺:「・・・。」

リーダー:「どんな感じだったのか教えてもらえるかな?」

そこで昨日起こったことを思い出しながら事細かに説明し、荷物がまだロッカーに入れてあることを伝えた。

その後、リーダーが俺の荷物を取りに行ってくれて、スーツと鞄をよくチェックしてから俺に手渡してくれる。
その後、そのロッカーで過去に何があったのかをリーダーに尋ねてみた。

リーダー:「俺が来る前からあった事らしいのだけど、どうやら以前そのロッカーを使っていた若い女性が何らかの理由で自殺したらしくてね。仕事絡みなのか、人間関係なのかよくわからないんだけど、この会社の中で首を吊っていたという事なんだよ。最初は全然信じていなかったんだけど、そのロッカーを使う人がどうも深夜になると遭遇するらしくてね。」

俺:「だから『あんまりお勧めはできない』ということだったんですね。」

リーダー:「あぁ、以前そんな事を言ったかもね。まぁ、こんなことを簡単に口に出せるものでもないし、俺自身は体験していないから下手なことも言えなくてね。」

その後、プロジェクトが成功に終わり契約期間の延長の話もあったのだが、丁重にお断りして契約期間の終了とともに逃げるようにその職場を離任した。

当然のことながら、あの件以降一度もロッカールームには入っていないし、使う気にもならなかった。
あの狭いロッカーの中に生身の人間が潜んでいるのは難しいと思う。

無理やり体を押し込めば、女性なら誰でも入れるのかもしれないが、ぬぅーっと出てきた角度が、もう絶対に有り得ないような無理な角度だったのだ。

リーダーの話によると少なくとも過去に3人は遭遇しているようなので、ここのスレを見ている人の中にも体験した人がいるのではないかと思って書かせて頂きました。

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