病院での子供の声

これは私が昔、オートバイで事故をして入院していたときのことです。

私は重傷を負ってある大学病院の救急病棟に入院しました。
医者からは「命は助かるでしょう。でも傷ついた右足は諦めてください」と言われるほどの状態でした。

重症者が入る病室なので見舞いの人も少なく、病棟自体もまるで人の気配がないような、とても静かなところでした。
入院して2、3日後、気になっていたことがあって、見舞いに来た両親に聞いてみました。
「子供達の遊んでいる声が部屋まで聞こえて、うるさくて眠れないよ」と。

両親は「目の前がこの大学付属の幼稚園だから、仕方ないね」と言いました。

私は起き上がる事ができない体だったので、手鏡を使って外の景色を見ました。

確かに駐車場をはさんで、敷地の外に建物が見えます。
「ああ、これなら確かに仕方ないね」と納得はしたのですが、それにしてもこの賑やかさ!
何人かで鬼ごっこでもしているのかな?と思っていました。

結局、この賑やかな笑い声には、一般病棟に移るまでの1週間付き合わされることになりました。

その2ヶ月後には松葉杖で外も歩けるようになり、幸運なことに、傷だらけでも右足も残り、あとはリハビリに専念するだけとなりました。

私はいつものように、夕食前の散歩として、病院の正面玄関から外に出ました。
事故をしたあの秋の日はあんなに暑かったのに、いつの間にか季節はもう冬。
白い息を吐きながら、私は何気なく、以前いた救急病棟を見やりました。

救急車が来る時以外は、人影もなく、以前と変わらずとても静かです。
ふと、私の中に矛盾する思いが。

「静かって、毎日あんなに騒がしかったのに?」

そう言えば、あの子供達の声は、幼稚園からというよりも、窓のすぐ下からだった。
そしてそこは大病院の中の、しかも救急車が停まるところ。
そんなところで子供が遊ぶだろうか?
しかも毎晩、真夜中一時過ぎに・・・。

私はとても切なくなりました。
冬の早い夕暮れの中、私はずっとその建物を見てました。
あれから10何年もの時が経ちましたが、今でもあの子供達は、自分の存在が無くなったことにも気付かず、どうしたらいいのかもわからずに彷徨っているのでしょうか。

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