久しぶりに先輩に遭遇した。
Mさんは大学時代の女の先輩である。
びっくりしたが、東京に出張で来ることもあるので不思議はない。
嬉しくなって「Mさん!」と声をかける。
返事はない。
それどころかMさんはそのまま歩いていく。
聞こえなかったのかな?と「Mさん、Mさん!」と追いかけて呼び止めた。
前に回って見た相手は、背丈、顔、・・・やはりMさんである。
だが、目だけは・・・。
「Mさん」とさらに面と向かって呼びかけても、相手は怪訝そうにこちらを見るばかり。
その目は明らかに見ず知らずの、不審な相手を見るモノだった。
思わず「・・・すいません、ヒトチガイでした」とその場をごまかした。
どうしたんだろう、声をかけてはいけなかったんだろうか?
釈然としないまま一日を過ごし、夕方に思い切ってMさんの携帯に電話してみた。
Mさん:「お~K君、ひさしぶりやねw元気にしとった?」
いつものMさんが出た。
今日新宿であったことを話すと、やはり彼女は四国にいて忙しく、東京には来ていないという。
他人の空似というが、世の中にはあんなにもよく似た人がいるものだな・・・苦笑していると、そういえば・・・とMさん。
Mさん「・・・そういえば、こないだこっちの近くの交差点でさ、そっくりな人がおってさ・・・びっくりしたわ」
Mさんは自分そっくりな人間を見たという。
その”自分”は交差点の雑踏の中、ぼんやりした目で立ちつくしていたそうだ。
Mさんは声をかけようとしたが、ふと、かけてはいけないような気がしてそのまま通り過ぎたという。