その浮遊物は見てはいけない

暇だったので休日の昼間に一人で映画館へ行った。

客席はほぼ満席だった。
俺はスクリーンからだいぶ後方の、左端通路付近の席に座った。

俺の左隣の席には同じように一人で来ていた三十代ぐらいの女性。
右隣には若いカップルが座っていた。

暫くして、場内の明かりが消え、映画は始まった。

正直、その映画自体は退屈な代物ものだった。
何度か寝そうになったが金を払って寝てしまうのは癪だったので、なんとか起きていた。

映画はまだ中盤で、主人公が部屋でヒロインに何やら重大な事を打ち明けているらしかった。

俺はただただボンヤリとスクリーンを眺めていた。
すると俺の視界をなんだか白い煙のようなものが横切っていった。

スクリーンにそんなものが映っていたわけではなく、明らかに俺の目の前を左から右へ横切っていった。

誰か煙草でも吸ってるのかと辺りを見回したが、そんな奴はいない。
俺はもう一度辺りを見回した。
そして、見つけた。

白い煙の様な塊が、ゆらゆらと客席を移動していた。
まるで誰かを探しているようだった。

あれは一体なんなんだろう?
俺はその白い煙の塊を目で追っていった。

どうやら俺以外の客はその煙の塊に気付いてない様子だった。

煙の塊はゆらゆらと一人一人の客の上を漂っていった。
そして、煙の塊は、スクリーン近くの中央の席に辿り着くと、急にぴたりと止まった。

そこには一人の男性客が座っていた。
白い煙の塊はその男を見下ろすように、そこに、とどまっていた。

俺は映画そっちのけで、その煙の塊に釘付けになっていた。

アレは一体男をどうするつもりなんだろう、と。

すると、「もしかして、見えてるんですか?」と突然、小声で囁かれた。

俺はぎょっとして声の方に顔を向けた。

左隣の席にいた女だった。
俺は何も声を発さず一度だけ頷いた。

「それなら、もう見るのやめてください。あぶないから。」と女は言った。

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