クリスマスイブにひき逃げ・・・

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

『医者の目に涙』ってお医者さんが書いたエッセイ集に載ってる話。

冷たい雨が降ってるクリスマス・イヴの夜22時頃、著者の病院に車にひき逃げされた40歳の女性が運ばれてくる。
内臓破裂の疑いで緊急手術をすることになり、白血球数を調べたところ、白血病ということが判明。
無事手術を終えたが、白血病の話は女性には伏せておくことに。
術後三日目、女性は著者に「ほんの少しの間でいいですから私の話を聞いてください」と、自分の生い立ちを話しはじめた。

順さん(仮名)は、3歳下の弟と上海で終戦を迎え、父は行方不明、母と病気の弟は上海にとどまり、順さんだけが、一人、広島の実家に帰ることになった。
しかし実家は原爆で跡形もなく、親戚も見つからず、上海の母とも連絡がつかなくなってしまう。

14歳の順さんは施設に引き取られ、施設を出てからは、工場の女工をはじめ幾つも勤務先を変え、今はバー勤め。
一度、結婚をしたが、別れて今は独り身だった。

実は、順さんは、弟と奇跡的な20年振りの再会をしていた。
銀行に貼ってあった顔写真入りの行員紹介のポスターがきっかけだった。

弟は銀行員で、一男一女の父となっており、母親は順さんを手を尽くして探したこと、
母親は10年前に亡くなっていたことを知った。
順さんはみじめな過去を弟に全て話さなかったが、「お母さんの位牌にお線香をあげたい」と言っても弟の家に呼んでもらえず、いつも外で会い、この2年は会ってもいなかった。

順さんは、「弟と会わなければよかった、もうこの世に未練なんかないです。いやなことばかりの一生でした。早くあの世にいって、母の胸の中で思いきり泣きたいんです」と語った。

弟は自分にとってはただ一人の肉親だから、自分が私が死んだらハンドバックの中の貯金通帳とハンコを弟に渡してくださいと、著者にお願いをした。

その翌日、順さんは息を引き取り、連絡を受けて駆けつけてきた弟は、順さんの亡骸にしがみついて「姉さん、かんべんしてぇ」と大きな声で号泣。

二ヵ月後、弟から順さんの遺骨を母親の墓地に埋葬したと著者に知らせがあった。

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