知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
「とある山邑でですね、『葬儀がおこなわれるからお前も来い』って誘われたんです。それもただの葬儀じゃないそうで。神様の葬儀なんだと言われまして。余所者の私が顔を出しても良いのか?って聞くと、余所者だからこそ是非出てくれと。変わった所だなぁと思いましたよ。結構その辺りの山地民族って、排他的なところが多かったから」
折角だからと参加してみた。
導かれた先は、何か石碑のような物が立てられた、山奥の空き地だったという。
邑人たちが車座になって碑を囲んでいる。
程なくして儀式が始まった。
着飾って勿体つけた様子の男が、木鍬で碑の前を掘り起こし始める。
この男性が責任者だったのか、他の者らは手伝うことなどせずに、ただ低い読経のような声を上げて地に穴が穿たれるのを見つめていたという。
やがて、男は鍬を放り出して、穴底に身を屈めた。
何か目当ての物を掘り出したらしい。
うやうやしく手中に収めると、それを皆に見えるよう頭上に掲げた。
酷く汚れていたが、間違いなく人間の頭蓋骨だった。
男性は穴から出ると骨を丁寧に拭い、用意していた水で洗い始めた。
綺麗になったところで、もう一度高く掲げ、頭を垂れる。
その場にいた皆が頭を下げたので、彼もそれに合わせて一礼した。
男は再び穴に戻り、頭蓋骨を底に収めた。
男が穴から出ると今度は皆が土を掛け始め、空き地は間もなく最初の状態に戻されたのだという。
葬儀はそこで終わったようで、その後は邑に戻り、宴会が始まったそうだ。
「後で詳しい人に聞いた話ですが、あれは二度葬っていう習慣なんだそうです。一度土葬してから数年時間をおいて、もう一度掘り起こして骨を綺麗にしてから埋葬し直す・・・そんな葬儀なのだとか。あの邑の一般人は普通の土葬でしたが、神様だけが二度葬にされているみたいで。恐らく、神とされた骸自体が御神体のような感じなのかもしれませんね。私が目にしたのは、神様の丁度二回目の埋葬だったのでしょう」
「ただ何と言いますか。ちょっと気になるのが、あの邑の神様についてなんですが。聞いたところ、あそこって客人神信仰があるみたいなんですよ。日本でいうエビス信仰みたいな、共同体の外から来た物を神様に据えるっていうヤツですね。で、二度目の葬儀が終わるとしばらくして、新しい神様と入れ替わるんだとか。そうやって二度葬の周期で、神様がグルグルと代替わりしている訳です」
「私、邑を発つ時に言われたんですよ。『今度来るなら○年後に来てくれ』って。『あんたなら良い神様になれそうだ』って。見送ってくれた邑の人達皆が、実に良い笑顔でそう言ってくれました」
『行ったんですか?』
私のその問いに答えて曰く、「とんでもない、とても行ける筈ないじゃないですか。うっかり神様にされてしまったらとても困ります」
そりゃそうですよねぇと返した時、はたと気が付いた。
続けてこう質問する。
『そう都合良く、神様の入れ替え周期で客人が死ぬものでしょうか?』
「追求しない方がいいですよ。聞いてる限り、あそこで神が途切れたことは無いそうですし。住人はそれが当然だと思っているし。信仰っていうのは本当に怖いですよ」
彼は首を振りながらそう言った。