ある労働者がセメント樽の中身をミキサーの中に入れていると中から木箱が出てきた。
その木箱を開けてみると中には手紙が一通あった。
それはセメント袋を縫う女工が書いたもので、その手紙に拠ると、彼女の恋人は破砕器に石を入れる仕事をしていたのだが、ある朝大きな石を入れる時にその石と共に破砕器の中に嵌ってしまったらしい。
仲間が助け出そうとしたが間に合わず、石と恋人の体は砕け合って、赤い細い石になって出てきた。
そしてその石はさらに細かく砕かれ、焼かれてセメントになった。
自分の恋人はセメントになってしまった。
そこで恋人はセメント樽の中に手紙をそっと仕舞い込んだのだった。
彼女はせめてそのセメントがいつ、どこで、どんな場所に使われたのかを教えてもらいたくてその手紙を書いたのである。
手紙を読んだ労働者は、現代資本主義の巨大な動きの中で、無力な労働者がその犠牲になって無視されている現実に気付いて憤りを覚えるが、同じ立場にありながら何もできない自分のやりきれなさを、せめて酔いに紛らわせようとするのであった。