俺沖縄出身なんだけど、おばぁに聞いた話。
おばぁが小さい頃にそのまたおばぁ(俺にとっては曾曾?祖母)がしてくれた話なんだけど、昔のエイサー(沖縄の太鼓)っていうのは今に比べてとても地味だったそうです。
元々鎮魂祭の意味合いが強く、白い装束をつけてトライアングルみたいな鐘を鳴らしてその年に亡くなった人の家を廻るという儀式でした。
その日だけは夜遅くにも出歩けて、しかも訪ねた家ではお菓子などが出るして小さなおばぁにはエイサーの日はとても楽しみな日だったそうです。
ちなみに亡くなった人を出した家はその日1日絶対外に出てはいけない事になっていました。
その年おばぁの家では父が亡くなっていました。
エイサーの日に母や他の兄弟が家々を廻ってくる人を迎える準備をしている時にも、小さなおばぁは今夜他の家を廻る事で頭がいっぱいでした。
しかし母に「今日は外に出ることや、ましてや他の家を廻るなんて事は絶対してはいけません」と言われていました。
それでもおばぁ年一回の楽しみだったのでこっそり行ってやろうと思っていたそうです。
そして夜も更けた頃エイサーの人たちが廻ってきたそうです。
他の家族は廻ってきた人たちにお酒や料理を振る舞ってるなか、おばぁはこっそり家を出て門の所で待っていたそうです。
そして廻る人たちが出てきた時にこっそり紛れてついていったのです。
やった、これで今年も参加できるぞ。
ばれて起こられても謝ればいいや、と思っていたおばぁ。
しばらく歩くと変な事に気がつきました。
山に向かっている?
次の家は海の側にある家なのにこの行列は山へ向かう道を行っています。
しかも10人ほどが列をなして歩いているのに一切足音がしないのです。
怖くなったのですが、列から離れて今来た道を一人で帰るほうが怖かったので仕方なくついて行く事にしました。
しばらく歩くとまた変な事に気がつきました。
ここは山のどのへんだろう?
いくら暗いとはいえこの山はいつも遊んでいる山なので知らない場所なんてあるわけありません。
さらに怖くなってきたおばぁは場所を把握するために辺りを見渡しました。
一瞬後ろを見た後、前を振り向くと前を歩いていたはずの人たちがいません。
えっ?と思ったおばぁ。
真っ暗な山に一人で置き去りにされたおばぁは一瞬でパニックになったそうです。
パニックになったおばぁは恐怖のあまりそこから一歩もあるけなくなったそうです。
こっちだよしばらくその場に立ち竦んでいると前方から男の人の声がしてきました。
こっちだよこっちその声はとても優しそうで、おばぁは声のするほうへ歩きだそうとしたそうです。
その時「やー!ぬーしがー!!(お前なにしてるんだ)」と怒声がしたそうです。
振り向いたおばぁはそのまま気を失ったそうです。
気がつくと家で、どうやら門の前で倒れていたそうです。
おばぁは母にこっぴどく怒られたそうですが、自分が体験した話をすると真剣な顔になってこう言ったそうです。
「人はね死ぬと心を失って悪い事をするの。だからそんな事をさせない為に鐘をならしてあの世へと案内してあげるのよ。でも、あなたを助けた声はもしかしたらお父さんだったのかもね」おばぁはその話を聞いた時が一番恐怖したと言っていました。
あの行列はもしかしたら皆死んでいて、自分を仲間にして連れていこうとしていたのかと。
そしてなにより、自分を助けた声に全く聞き覚えが無かった事。
そしてむしろ、自分を呼んでいた声の方が・・・。
「もしかしたら一人では寂しかったのかもしれないねぇ騒がしい人だったから」おばぁはそう言って少し笑ったと言いました。