弘法大師に縁のある四国八十八箇所札所巡り、遍路に纏わるお話。
とある青年が遍路道の難所付近に建つ、あるホテルに宿泊していた時のことである。
深夜に突然目が覚めて、何者かの強い気配を感じた。
霊感がある彼は、入口から部屋の中に何人かの霊が入って来たのが分かった。
気にしないように目を瞑っていると、左手が急に重くなり、数人の人間にすがりつかれるような感覚を覚えた。
そして「お願いします」と、絞り出すような声が聞こえたらと思ったら、次の瞬間にはふっと左手が軽くなっていた。
実家に帰って四国での体験を祖母に話すと、「お大師様の念珠のせいだねえ」とお遍路さんに纏わる悲しい話を教えてくれた。
昔は、死期が近い人や労働力として見なされなくなったご老人を遍路に出して、人口減らしをしていたとのことだった。
彼の左手首には祖母からもらったお大師様の腕輪念珠がお守りとして着けられていたので、行き倒れて亡くなったお遍路さんが左手のお大師様に助けを求めてすがって来たのだろうと教えてくれた。
映画の題材や自分を見つめ直す機会として政治家や芸能人が遍路巡りをしたことでも注目を集めた。
お遍路のスタイルは様々で、長期休暇を取っての歩き遍路だったり、学生が夏季休暇で自転車で巡ったり。
現代における遍路をする目的は願掛けや内省など、生きることに前向きな意味合いで捉えられているが、近代以前はお大師様に付き添われての“あの世への旅立ち”という意味合いもあった。
不治の病を抱えた人や体の自由が利かなくなったご老人が、家族の負担を減らすために今生の別れをして遍路に出たということである。
そういった事情で、遍路の最中に行き倒れて亡くなった方は数知れず。
遍路で霊的な体験をしても何ら不思議は無い。
行き倒れたお遍路さんが多く埋葬されたと云う、とある難所では、助けを求めてすがりついて来る幽霊の話が伝わっている。